道端で目にとまった古びた軽自動車。
役目を終え、
錆びたボディや割れた窓は木々に包まれ自然に溶け込んでいた。
その姿は美しくも切なく、
父が買ってきた中古の軽を思い出させた。

まだ家にラジオがなかった頃、
夜になると車の中でひとり聴くのが楽しみだった。
電波は弱く、はっきりとは聞き取れない。
それでも、
暗闇の中で耳を澄ます時間は不思議と心地よかった。

「形あるものはいつか壊れる」。
壊れゆく姿でさえ記憶を呼び覚まし、あの頃の気持ちを差し出してくれる。

この車に出会えたことで、
忘れていた心の風景に再会できた。

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